【モンゴル】 ゲルの家族と羊の屠殺
2007年07月18日 02:29
“あづさや”宿マスターご夫妻のお知り合いの遊牧民一家のゲルにお邪魔することにした。
浪花の看護師・チエさんも一緒である。
ウランバートルから車で45分。
都心部からたった40キロ、そこはもう大草原。
郊外に行くに従って、都心部→定住遊牧民(移動をしなくなった遊牧民)→遊牧民、という住み分けになっている。
広大な大地に目を奪われる。
移動式住居=ゲルに住む遊牧民家族。お父さん、お母さん、娘二人、小さい息子1人。
祖父一家や母方の弟夫婦も一緒に住んでいて、約500メートル離れて3個ずつ計6個のゲルを保有している。
子どもたちの名前は、ナムカ(12歳)、タワカ(10歳)、チンダマ(3歳)。
そして従姉妹のバスカ(10歳)。
とにかく元気!!
そして賢い。聞いたことのある日本語や英語をよく覚えていて、話してくれる。
大人と同じように働く彼らは力強く、着いた早々腕相撲をせがまれる。
五分五分…つえぇ。
その後、鬼ごっこ、くすぐり合いっこ、日本語英語の歌の歌い合いっこ、髪の毛結び合い、デジカメで写し合い…など延々と遊び、久々に全力疾走した。
しかし、遊びの合間に仕事はしっかりやる。
トラックが来れば荷台から羊たちを下ろして囲いに入れ、
手洗いで洗濯をして干して取り込み、
弟の髪を洗い、
燃料になる乾いた牛のフンを拾い集める。
夕方になると、ゲル以外なにも見えなかったはずの大草原に、続々と黒い点々が見え始める。
それぞれ100頭を超える、牛、馬、羊の大群が帰ってくる。
全て彼らの資産である。
牛がゲルに近づくと、女たちは椅子とバケツを持って出向く。
母牛のおっぱいを子牛が少し吸って刺激したのを見届けてから、子どもたちが子牛を囲いに離し、その間に乳を搾る。
12歳のナムカはもう乳搾り係の方に入っている。
私も試そうとするが、かなり指先の力が必要な重労働で、ナムカのリズミカルな搾乳に恐れ入る。
これがバターになり、チーズになり、ヨーグルトになり、モンゴルミルク茶になり、馬乳酒になり、彼らの生活の基礎になるのだ。
男たちに追われて、馬が群れを成して帰ってきた。
なんて綺麗な毛並みの馬たち!!
そこで10歳の女の子タワカが白馬にまたがり、100頭を越える馬たちをたった一人で1か所に集める。
羊の屠殺も見た。
お腹にナイフを入れる瞬間は女は見てはいけないらしいのだが、一部始終を見た。
内臓のある部分を取り出し、静かに安楽死させて全く血を出さない。
死亡を確認すると、皮を剥ぎ、内臓を取り出す。
本当に手際がいい。
そこへ女たちが来て、内臓を洗い始める。
最後に肋骨に溜まった血をきれいにすくい出し、洗ったばかりの腸に詰める。きっとソーセージにするんだろう。
後は女たちが骨に切り込みを入れ、肉をブロックに刻む。
毛皮は街で売って、肉は干して冬に備えた保存食になる。
屠殺は気持ち悪くて恐ろしいもの、というイメージがあったが、全くそんなことはなかった。
むしろ、この1頭が無駄なく隅々まで利用されて生活の糧となることに、深い感動を覚えた。
ここには無駄なものなどひとつもない。
羊の体で無駄なところなどひとつもない。
彼らの生活に無駄なことなど、何ひとつもない。
モンゴルの雄大な草原でのんびりしたい、とどこかノスタルジックな思いを抱いていた自分を恥じた。
彼らは大草原で一生懸命生活している。
一方、象徴的な出来事もあった。
昼過ぎ、車を飛ばして胡散臭い姉ちゃんとペテン師のようなおっさんが来た。
携帯電話の売込みらしい。
驚くことに、遊牧民の家族は1家に1台すでに携帯を所有している。
伝統的生活が現代化されていく様を垣間見た気がした。
各ゲルにはソーラーパネルもついていて、太陽光で電気を作り、白黒だがテレビも見ている。もっぱら日本の相撲を見ているのだ。ゲルでも朝青龍は大人気。
また、街から彼らの知り合いの家族がゲルに遊びに来た。
見るからに都会人。長女の方は高校で英語を習っている。
遊牧地のことを“countryside”(田舎)と言うから驚いた。
モンゴルの食べ物で好きなのはスパゲッティ。…それイタリアンですよ?
来年は大学に進学。
将来の夢はアナウンサーだという。
少し考えた。
私はゲルの家族に情が移っているから彼らをピュアで素敵に思うが、
都会の家族たちも、胡散臭いと思った携帯セールスマンたちも、
どちらもそれぞれの人生を生きているのだ。
しかも鳥瞰したら、日本人の私は明らかに都会人の部類じゃないか。
何を都合のいいことを言っているのか。
私はどちらの肩を持つこともできない。
面白いことに、モンゴルの都会人たちは、田舎が大好きなのだという。
時間さえあれば訪ねていく。
日本の田舎のイメージと違うな。
イギリスの田舎のイメージと近いかもしれない。
都会に住んでも、アイデンティティは忘れていない。
ただ、これだけは思う。
遊牧民の中でも、定住したり、ゲルを観光用に開放して遊牧を辞める人たちもいる。
しかし、都会化した方が良い、偉いなんてことは絶対にない。
遊牧民は客の前でも夫婦じゃれあい、そこに子どもたちも加わっていくほど、家族仲がとても良い。
そして大人子ども問わずよく働く。
毎日が充実して、輝いている。
彼らの生活が困窮したり、外圧がかかったりせず、彼らが望む限り、永遠に続いて行くことを願う。
<今日のグルメ>
遊牧民特製麵、とでも言おうか。
おばあちゃんが小麦粉を牛乳で溶き、クレープ状に焼く。
それをお母さんが重ねて細く切っていく。
そして干した羊の肉、玉ねぎ、人参と炒める。
なかなか美味しい。素朴な味。栄養もある。
食べ終わると、お代わりは1杯目と同じ量だけよそってくれるので要注意。
お昼は同じ具をご飯と炒めて塩味でチャーハンにしていた。
レパートリーは他にうどんもあるらしい。
それから、前言撤回!モンゴル茶は、遊牧民の飲むものに関してはめちゃくちゃ美味しい!!
街のレストランとだいぶ味が違う。
温めたミルクにお茶を混ぜ、塩味をつけたものだが、ゲル家庭のものはしょっぱくなく、ぐいぐい飲める。
子どもたちは、最後にこれを注いでお茶漬けのようにして食べていた。
それから馬乳酒!!朝青龍のパワーの源。
ものすごく酸っぱい。チエさんは苦手ということだが、酸っぱいもの好きの私は口に合った。
アルコール度は強いが、さらっと飲める。



