【オーストリア】 モルダウ川合唱・天才の悩み

  • 2007年08月27日(月)
  • 21:35

チューリッヒから寝台列車に乗り、朝ごはんつきのサービスに感激しながらオーストラリアに到着。

首都Viennaヴィエンナ(もしくはWienウィーン)。
ここに来た最大の目的は、モルダウ川をその目で確かめることである。

中学時代、毎年クラス単位で歌った校内合唱コンクール。
1年生のときの課題曲が「モルダウ川」。
その後有志でつくった合唱団でも歌い、馴染み溢れんばかりの曲。

でも。一体モルダウ川はどんな川だったのか。
想像しながら歌っていたはいいけれど、結局見たことなっしんぐ。
歌詞のように歴史を持ち、青くて光が満ちる川なのー?確かめてみようじゃなーい。

宿“Wombat”の近くのレンタサイクル屋で自転車を借りる。
「他の外国人、例えばアメリカ人なんかは街の写真だけ撮って帰っていくけど、日本人はみなヴィエンナを音楽の都だと思っているよね。どうして?」
と受付のロン毛ドレッドのお兄さんが聞くので、へぇ〜と思いながら、
「日本の有名な音楽家がよくオーストラリアに来るのと、最近では“のだめ”という漫画が流行っているからかなぁ。」
と答える。

自転車を借りて街の外までこいでいく。
車道、歩道に加えて“自転車道”がしっかり整備されているのを半ば無視してこいでいたら警官に2度も注意される。ごめんちゃーい。

街に一番近いモルダウ川(ドナウ川)の土手に着く。
確かに緑色の川だ…しかしそこは、そこまで大きくも無い川幅で、ビルに囲まれ、土手にはいっぱいの落書きがあった。
でもこれは自転車屋のお兄さんから調査済み。現在、ウィーンの街をぐるっと取り巻くように建っている近代的な建物群は、モルダウ川の氾濫時に備えて造られていた塀の跡地に建っており、今なお川を囲って防水提の代わりをしているらしい。

ここからが本番。
自転車で緑色の川のそばのサイクリングロードをせっせと南東に向かって漕ぎ始める。
ぎらぎらに照り返す太陽の下、この川の部分は曲で言ったらまだF#マイナー(短調)のところだなと思い、マイナー調の部分ばかりを口ずさむ。

汗だくになって漕いで行く。だんだん街が消えて郊外になり、そのうち煙突を構えた工場が建ち並び、空港の方向を示すでかでかとした看板が見えてくる。

すでにソプラノパートもアルトパートも男性パートも何度も歌って飽きてしまった私は、中学時代のことをあれこれ思い出し始める。
今思い出すと赤面するような恥ずかしいことばかり。

合唱コンクールは練習で揉めるのが通例で、毎年クラスの誰かしらが泣いて解決するのが大変だったなぁ。
有志の合唱団でコンクールに出たとき、会場前で練習していたら実は館外は練習禁止で先生を困らせた。
自分で前髪切りすぎてパッツンになってたのって一体何度あったかな。
入学したての頃は髪が腰まであって、前庭で遊んでいると2階の窓から「髪結べよ!」と先輩女子に怒鳴られ、「結んでやろうじゃん!」と言い返して結んでたら、実はバスケ部の先輩で冷や汗かいたり。
隣のクラスのちょいワル女子たちが他の子のロッカーに雪だか水だか入れて水浸しにしてるのを偶然見つけて、「小学生でもしないことしてんじゃねぇよ」とぷっつんキレたら逆に恐れられたり。
ホームセンターの中でケイドロしてやろうとか言って、今と同じように自転車こいで10人近くで行って、着いたらへとへと。最後は結局海に行ったんだっけ。
歌詞募集して学年合唱曲とか作ったなぁ。どんな曲だったかな。
親分って言われてたなぁ。今考えるとなんつうゴツイあだ名…。茉莉は元気かな。

あれこれ思い出すうちに、あっという間に1時間。
川と川がぶつかるところに出て、これがモルダウ川の真髄か…!と思う。
頭の中で繰り返していた短調がBマイナーを経て、いよいよG♭メジャー(長調)のクライマックスへと変調した。

♪ボヘミアの河よ モルダウよ 光満ち 我が心にも常に響き 永遠(とわ)の平和を我はゆかん 称えよ故郷(ふるさと)の流れ モルダウ♪

向こう岸まで一体何十、いや何百メートルあるだろう。
広大な河はどこまでも文字通り本当に緑色をしていて、太陽の光を反射しながら悠々とたゆたっている。
ああ、この河のことをずっと歌っていたんだな。中学時代の楽しかった思い出がぱぁっと溢れ出てきた。

街に戻り、黒光りするカールズ教会やペスト流行の後に建てられた大聖堂を見ながら宿に帰り、シャワーを浴び着替えてオペラ座へ。
ウィーンが誇る巨匠の作品を専門に演奏する。モーツァルト交響楽団のコンサートにGO。

今朝ウィーンに着いてすぐ予約したのだけど、ちょっと奮発したからかなりいい席、2階席の中央だ、やったね!
館内の案内係やパンフレット係はみなモーツァルト時代の服装をしていて、ドレスだったりタキシードだったりと華やか。

出てきた演奏者たちも、みな白い縦ロールのカツラを被り、色とりどりのタキシードを着ている。
しかし、演奏は本物だ。レベルがめちゃくちゃ高い。モーツァルトが活躍した18世紀にコンサートは「音楽アカデミー」と呼ばれていたらしく、当時の慣習に従って交響曲や協奏曲の合間にオペラの序曲やアリア、ドュエットなどを交互に入れて演奏していく。歌手たちの衣装も凝っていて面白い。

演奏も去ることながら、彼らのウィットに富んだ観客サービスがなかなか憎い。
例えば指揮者は「剣の舞」のとき観客に手拍子を求め、オーケストラではなく観客の指揮を始めたり、挙句の果てにフェイクを入れてみたり。

帰り際の観客はみなご機嫌。口笛でモーツァルトを吹いたりしている人もいる。
最高の技術と、それがあるからこそ許される気の利いたパフォーマンス。モーツァルトを心行くまで楽しめたひとときだった。


さて、その後。
ランチしていたときに話しかけてきた韓国人がいて、飲みに行こうと誘われていたので待ち合わせ場所へ。韓京冊、ハン・キョンスウくん30歳。ソウル大学を出て兵役も終えてウィーン大学院に留学し、そのままここで仕事をして7年目。いまや英語よりドイツ語の方が堪能。
連れて行ってくれたのは博物館が集まるMuseamsquartierの中庭。屋外バーが開店し、酒を楽しむ人で溢れている。
「昼間は博物館、夜はバーになる有名スポットだよ。地元の人もみんなここへ飲みに来る」らしい。

今日はどこに行ったの、というので、見たものをあれこれ話したら、ドナウ川でよくそんなにサイクリングしたもんだと笑った後、ああ、あの建物はペスト病鎮魂で建てられて高さ○○m、その教会は○○mでヴィエンナで一番高い、とすらすら言う。
また、昼にスロヴェニアに行きたいと話していたことを覚えてくれていて、以前行ったときに使った地図をくれた、そこにも○○mなどと記入してある。はて…?

よくよく聞いてみると、彼の専攻はコンピューター・グラフィック技術での建築設計だとか。今はウィーン大学院で研究者として、教授と一緒に産学連携のような形で企業と協力して仕事をしているらしい。オーストリアだけでなく他国にも彼自身が作った建物があり、ベルリンには彼の名前が付いているビルさえあるという。
建物の高さを覚えていたのは職業病だったのね。
ウィーンって音楽の都とばかり思っていた、と言ったら、ウィーン大学は本当にいい大学で早稲田大学出身の人なども同じ研究室にいるよという。

仕事の話を聞くうち、ああ、この人は天才タイプなんだな、と合点する。謙虚な人なので理解するのに時間がかかったけど、どうやらやっている研究はドイツ企業も巻き込んだ最先端のもので、研究室でも彼が最も将来を嘱望されているようだ。

ヨーロッパ中の建物を観に行っている彼は、
「本当は、いつか古い建物と新しい建物が融合したような、いつまでも人々の記憶に残るような、そんな建物を作りたい」
と言う。

しかしワインが進むうち、
「家族も友人も韓国にいるから本当は帰りたい。今すぐにだって帰りたい。いつ帰ろうかと考えている」
と弱気なことを言う。
そろそろ結婚もしたいし、ゲルマン系の女性は苦手だし相手は絶対韓国人がいいし(私のことは背が高いので始め韓国人だと思ったらしい。よく言われるわーみんな日本人女性は小さいというイメージがあるのね)、将来を考えると不安なんだ、…。

うーん。きっとあなたのやっていることはあなたにしかできないことで、後世にまで残る大仕事になるんじゃない?ここで投げ出すのは惜しいよ。
でもどうしても帰りたいなら休みをとって帰ってみるのもいいかもしれない。そしてリラックスしてもう一度仕事のことを考えてみたらいいんじゃないかな。そうしたら自分の仕事の重要性が改めてよくわかるかもしれないよ。

むーん、無責任なことは言えない。それに母国に帰りたくなる気持ちはよくわかる。私も旅に出て初めて、これまで当たり前に思っていた些細なことに対してすらも、ときどき懐かしい気持ちでいっぱいになるようになった。でも彼には頑張ってほしい。彼の才能があれば、100年経っても200年経っても、私のような旅人が世界中から見に来る建物を創れるかもしれないのだから。


(後日談)
実は、私がサイクリング中に張り切って脳内合唱していた川は、モルダウ川ではなくてドナウ川でした…。
自分の勘違いパワーにトホホ…。勘違いしてこれだけ盛り上がれる自分ってある意味幸せ者かも…ずーん。
お詫びして訂正します。

<今日のグルメ>
ランチは自転車屋のお兄さんがおすすめしてくれた“Gasthaus Weisse Rose”にてオーストリア料理を。キョンスウが写っている写真の下の方を参照してね。
Wiener Schnizel vom Schneir=escalope “Vienna Style”という、ウィーンスタイルの子牛肉のソテー。子牛肉を顔の大きさほど薄く平べったくして揚げてあり、レモンをかけていただく。これがお肉かと思うほど柔らかくて止まらない。Liverdumping soupというレバーのスープも意外とくどくなくてイケた。出ようと思ったら、水だけ飲んで慌しく仕事に戻っていったはずのキョンスーがいつの間にか支払いをしてくれていて感謝。

サイクリングの休憩でモルダウ川沿いにある“Land haus”でおやつ。名物のApfelstrudel mit Schlog、いわゆるアップルパイをクリームをかけていただく。モルダウ川の緑色を眺める木陰のテラス席で、かわいらしく運んできてくれた小さな男の子のウエイター姿が濃厚な味と共に忘れられない。

キョンスーがオススメ〜と言って飲ませてくれたのは、“Gruner Weltneiner”.Green Worldという意味のオーストリア産白ワイン。爽やかで酸味がある味、気付いたら二人で3本目空けてた。
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旅人

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1983年生まれ。東大法学部卒。
社会人としてスタートを切る前に、夢だった世界一周へ。

尊敬:緒方貞子さん
趣味:バスケットボール、ベリーダンス、サーフィン、バイク

著書

メディア出演履歴

【雑誌】
『Zai』(ダイヤモンド社)「ミニ株バトルコーナー」連載(06年7月号〜07年7月号)
『社労士V』連載(日本法令)(07年10月号〜)
『メモ ノート200%活用ブック』(日本能率協会)
『クロワッサン』(対談 高田万由子さん)
『週刊現代』『女性セブン』
『CIRCUS』『日経キャリアマガジン』
『月刊人事マネジメント』
『週刊ダイヤモンド 別冊特集』
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