【イエメン】 パパには3人妻がいる

  • 2007年10月09日(火)
  • 20:24


…映画の撮影中?




空港の入国ゲートをくぐると、勇者のコスプレのようにお腹に三日月型の剣を差している男たち。
そして、目以外を真っ黒に覆った女たち。

…ここが本当に現代国家の首都?

Sana’aサナアのレンガ造りの旧市街を歩くと男たちはとにかく陽気で、デジカメに映ろうと我も我もとガヤガヤ集まってきた。

アラブ人の基本服ディシュダシャを、ターバン・ジャケット・ジャージ・腰布などでそれぞれ工夫し、ハイセンスにまとめているのに脱帽しちゃう。
私がピーコだったら、間違いなく世界中でのファッションセンスナンバーワンをイエメン男性に進呈する。

おへその前に先祖代々伝わる刀剣ジャンビーヤを差すのは一流の男の証らしい。戦うためにあるのではなく、舞うために帯刀している…可愛らしい。
くちゃくちゃ言わせながらチューインガムのように噛んでいるのは精神興奮作用のあるカートという草だ。

一方、黒尽くめの女たちはとにかく不気味。目しか出していないので顔がわからない。表情もわからない。男たちとは会話せず、黙って通り過ぎて行く。




イエメンは石油が採れないためアラブの最貧国で、土埃の舞う未舗装の道に傷んだ建物。男たちはカゴいっぱいの野菜や豆を直接通りに並べて騒々しく売り裁いている。

アメリカ資本を拒否しているこの国は、時間が止まった本物のアラビアンナイトの世界。


ドアがついていないおんぼろ乗合ワゴン車で隣になった黒尽くめの女性が、そっと話しかけてきた。

「貴女、大人の女性なんだから、布で顔を隠した方がいいわよ」

彼女の名はハミーヤ、24歳。最近女の子も学校に行けることになったので、英語を勉強したという。
目しか見えないので、笑っているのか怒っているのか全くわからない。

「どこで買えるの?」

ハミーヤに連れられて黒装束を売るアバヤ屋へ。ずらりと並べられた漆黒の衣装の前にこれまた漆黒の衣装を着た女たちが群がり、もうまっくろくろ。



素材はガーゼで風通りがよく、顔を覆う布は頭のスカーフと一体化していて目のところにちょうど隙間ができるようになっている。私も身につける。

ハイ、まっくろくろすけの出来上がりー。
まさかこの格好でバックパックを背負うことになろうとは。

「そのスカーフのせいでハミーヤがどんな顔をしているのか全くわからないよ。」

「もしよかったらうちに遊びに来る? 家の中の女部屋でなら私はスカーフを外せるから。」

…女部屋??


彼女の家に行くと、髭を生やしたパパ47歳が登場。彼だけが男で唯一女部屋に入ることができる。

女部屋で覆いを取ったハミーヤは、麦茶色の肌をした彫の深い可愛らしい女の子だった。

一つだけ約束してね、絶対に顔を出した女の写真を撮ってはだめ、夫以外の男性に顔を見られたら最大の侮辱になるの、その写真をもし男性に見られたら大変なことになるから、とハミーヤは何度も注意した。

女部屋には子どもを含めて約10人ほど。9歳を過ぎると男の子は男部屋へ行き、女の子はスカーフを着ける。

「あれが私の母、第1夫人で43歳。
 隣で赤ん坊を抱いているのが第2夫人、37歳。
 そしてこちらが父の第3夫人、14歳。」

14歳!?

パパは娘のあなたより若い奥さんをもらっているの!?ひょえー!!

晩御飯は全ての夫人と娘たちが共同で作り、食事も一緒。
妻たち、娘たち、幼い子どもたちは女部屋でパパと一緒に食事を取り、大きくなった息子や独身の伯父たちは男部屋で食べる。
妻同士で喧嘩しないのか聞くと、全員平等に扱わなければならない決まりだから問題ないという。
訳わからん。
摩訶不思議なハミーヤの家にしばらく泊めてもらうことにした。

***

2007年10月12日金曜日、朝。

ラジオでニュースを聞いていたハミーヤが嬉しそうに叫んだ。

「今、委員会でラマダンの終了が決まったわよ!」

えっ、今決まった?
ヒジュラ(イスラム暦)におけるラマダン(断食月)は、1か月前の新月の日から始まっているが、終了日が厳密にいつになるかは聖職者たちが月を実際に目で見ながらの話し合いで決まるという。
しかも当日の朝決まるとは、アバウトというか、なんというか。

トルコから約1カ月の断食生活、長かった…。そして意外にもいきなり終わった…。
まあ、よく頑張った、私。これから昼間でも水を飲めるしご飯も食べられる!

イスラム暦は太陰暦で、1日は日が沈んだときを0時と数える。放送があったこの日の夕方から断食明けの祭りイード・アルフィトルが始まるので、日が傾く前にと、女たちは台所でカアクという特別のクッキーを焼き始めた。


いつもより大音量に聞こえるモスクからのアーーーーという放送を合図に、女部屋で(おそらく男部屋でもそうだろう)皆で争うように盛大に食事。
断食終了という安心感と、やり切ったという満足感で、お腹が苦しくなっても食べるのが止まらない。

食事が終わると、ハミーラがザカート(喜捨)を求めてきた。イスラムの五行の義務は、信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼である。

「断食をすると空腹の切なさがよくわかったでしょう?世界中には貧しくて満足に食べることができない人たちがいるけれど、断食をすることで彼らの気持ちを少しは感じることができるとされているの。食べ物を与えてくれるアッラー神に感謝をして、貧しい人たちが少しでも食べられるように寄付をするのを喜捨というのよ。」

その後、女性陣全員で連れ立ってモスクへと向かう。夜中とは言え、通りのあちらこちらからラマダン終了の叫び声が聞こえる。
ラマダン明けまして、おめでとう!っていう訳ね!


モスクの中も男女別で、「女の間」には200人以上の黒い布に包まれた身体がギュウギュウ詰めになり、メッカの方向を示すメフラーブという矢印の方を向き、合図の声に従って一斉に立ったり座ったりを繰り返す。

私も一緒に礼拝をし始めるが、動くたびにザザッザザっと衣擦れの音がし、どこを向いても黒・黒・黒で顔も見えない。自分が真っ黒な小山の大群の中に紛れてしまったような錯覚を覚える。

終了後、女性たちは集まって布を外して顔を露わにし、それぞれ寛いでおしゃべりに花を咲かせている。アメリカに住んでいたという派手な化粧のおばさまに英語のマシンガントークを浴びせられる。

「あなたイスラム教の修行をしているんだって?断食をやり切ったっていうじゃないの、立派だわ。そのまま改宗しなさい。ハミーヤも友達が改宗したらとても名誉なことなのよ。イスラム教徒になったらあなたの心が豊かになること間違いなしよ。私?私は布教のために渡米してアメリカ人をバンバン改宗させてたのよお。9.11以降風当たりが厳しくなって帰って来たけどね。」

アメリカでもその黒尽くめの恰好で?と聞くと、もちろんイエス。女だけこんな恰好しなきゃいけないの、差別じゃない?

「いいえ、女は神聖な生き物で守られなければいけないから、しっかりと覆いをかけるのは真っ当な考え方よ。誇りに思っているわ。」

うーむ、もし日本でこの格好をしたら目立ちまくって通報されるんじゃなかろうか。

***


ラマダンの後は結婚式が頻繁に開かれる。
紀元前10世紀頃、ソロモン王の時代に統治を行ったシバの女王の王国があったとされる南部の街マーリブへ行くと、急勾配の丘の上に積み上げたような縦長の家が並び、その合間をひょいひょいっとヤギがのどかに飛び回っていた。そのうちのひときわ大きい建物で婚礼の祝いをしているというので、混ぜてもらった。

広間に上がって、びっくり!

そこには女しかいなかった。

しかも、表では黒装束で顔まで隠していた女たちが、赤、黄、ピンク、色とりどりの華やかなドレスを着て、生演奏のアラビアンミュージックに合わせて踊り狂っている!

ははーん、結婚式は女は女だけで集まり、顔を露わにして思う存分着飾って、いつもはできないオシャレを楽しいでいるのね。

女の、女による、女のためのウエディングだ。

みんな顔に解放感が浮かんでいる。そのうち、アワワワワワワワワワワと甲高いイスラム特有の叫び声が発生したかと思うと、花嫁が二人入場した。どうやら合同結婚式らしい。意外にも、花嫁はいわゆる普通のウエディングドレス。どんな国でも、純白のウエディングドレスに憧れる乙女心は共通してるのかしら。

ただ、よく見ると、腕や首にヘナと呼ばれる植物の原料で細かい赤茶色の模様を入れている。特別なことがあったときに女性がする習わしである。
花嫁の登場でクラッカーがバンバン鳴らされスモークが焚かれ、音楽は最高潮に達した。

「外では男性に顔も見せないし話だってほとんどしてはいけないのに、どうやって結婚相手を選ぶの?」

「決まってるじゃない。金持ちかどうかで選ぶのよ。」

まじ!?愛じゃなくて金か、金だけかい!!

相手の男性はたいてい父親の知り合いやその息子で、一度も会うことなく、財産の多さを聞くだけで決めるという。そしてリッチな男ほど妻を多く持てる。
昔ジハード(聖戦)があった頃、戦争で適齢期の兵士が多く亡くなり、女が余ったことの名残ということだ。
私、金持ちとは結婚したいけれど、性格がわからないまま結婚するのは御免やわ。

でも、男にしたら初夜まで妻の顔がわからないってすごいことだろうなあ。ムッツリスケベにならざるを得ないではないか。聞けば、昼間はよりしっかり自分の身体を隠す女ほど夜は大胆だ、という笑えることわざまであるらしい。

そういえば、ランジェリーショップに羽根のついたブラジャーや手を触れると音楽が鳴り出すパンティがあったけれど…もしかして本当に夜はあれを身につけているのか…?夜の生活は謎に包まれる。


***

それにしても、イエメン人の女の子たち、覆面の下は美人ばかり。ハマームという公衆浴場に行った時、一糸まとわぬ姿の女風呂で、みんなボン・キュッ・ボンのナイスバディでお肌はすべすべ。
砂漠地帯で乾燥しがちなこの国では、ガーゼ素材の黒い布が吐息や汗の水蒸気を内側にこもらせてスチーム代わりとなり、肌を守っているようだ。食べ物も素材の味を生かしてとてもヘルシーだった。

ハミーヤの夢を聞くと、女性たちの教育をもっと普及させて識字率を上げることだと答えた。すでに企業から寄付金を集めてコミュニティ・エリアに読み書き計算のスクールを立ち上げていた。


保守的なイスラム教国で顔を隠した女の子たちは、伝統を守りながら女であることを楽しみ、さらには学ぶ権利を得ようと活動していた。

***

どこから見ても、私、イエメン人女性のような男性への従順さと慎ましさが、無い…。これが日本でモテない理由だったのかも…。
ええい、もういいや。面倒くさい。こうなったら自分から男性にアプローチしちゃえ。

イエメンの南にあるサウジアラビアは、独身の女が一人で入国することはできない。必ず父親か夫の同伴が必要だ。どうしてもサウジアラビアに行ってみたかった私は、偽装結婚でもいいから夫役を見つけようと思い、半ばヤケになって通りを歩いているイエメン人男性に片っ端から声をかけてみた。

「イージャアズーズワジ!(結婚して!)」

いつも陽気な男たちは喜ぶどころかビクッと身を引いて足早に去って行く。

やっぱり駄目か…。
夫ハンティング大失敗。


<グルメレポート>


一夫多妻制の奥様方が全員一緒に台所でごはんを作る。床に並べた料理を、右手でちぎったごつごつした窯焼きのパンやパリッとしたナンでくるんで食べる。
キュウリやトマトをサイコロ状に刻み酢をかけたサラダ、白いクリーミーな野菜シチュー、鶏肉と唐辛子の入った辛いスープ、小麦粉をラザニア状に重ねて蜂蜜がけにした柔らかいパイ、米を潰したこねたお団子などずらっと並べる。デザートはぶどう。合間にクレソンのようなハーブをかじってアクセントにする。


また、なくてはならない男性の社交道具が「カート」。
枝を持ち歩き、葉っぱを千切ってむしゃむしゃ何時間も口に含んで液を吸う。軽い興奮作用があり、そのうち皆うっとりぼおっとした気分になってくる。食後の一服には必ずカート。おやつの時間、商談、また特に何もなくてもむしゃむしゃ。タバコと同じくらいの頻度で好まれる。
週に何度かカートマーケットが開かれ、男たちで大賑わい。
私もチャレンジしてみたけれど、苦いのと作用が強いのとで頭がのぼせたようになり、すぐにギブアップ…。

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旅人

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1983年生まれ。東大法学部卒。
社会人としてスタートを切る前に、夢だった世界一周へ。

尊敬:緒方貞子さん
趣味:バスケットボール、ベリーダンス、サーフィン、バイク

著書

メディア出演履歴

【雑誌】
『Zai』(ダイヤモンド社)「ミニ株バトルコーナー」連載(06年7月号〜07年7月号)
『社労士V』連載(日本法令)(07年10月号〜)
『メモ ノート200%活用ブック』(日本能率協会)
『クロワッサン』(対談 高田万由子さん)
『週刊現代』『女性セブン』
『CIRCUS』『日経キャリアマガジン』
『月刊人事マネジメント』
『週刊ダイヤモンド 別冊特集』
【テレビ】
テレビ東京『ガイアの夜明け』
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