【エジプト】 ナポレオンとラブトラブル

  • 2007年11月06日(火)
  • 23:36



紅海に面した海辺の街Dahabダハブにて、スキューバ・ダイビング留学を1カ月。
アカバ湾、シナイ半島を越え、スエズ湾に沿って辿り着いたこの楽園は、燃えるような名前とは正反対の真っ青な海の向こう側にサウジアラビアが見える。

ここの海は言い表せないほど美しい。透明度もサンゴの色のバリエーションも生息している生き物たちの種類も大きさも衝撃を受けるほどの宝の山。世界でも最高峰のダイビングスポットであり、最も安くスキューバライセンスが取れる場所の一つでもある。


極彩色のテーブルサンゴの大群の上を、うっとり眺めながら仲間と潜り進んでいると、先頭のダイバーが拳を握って額に当てるサインで大騒ぎ。なんと、私の身長ほどもある巨大ナポレオンフィッシュが悠々と横切って行く。額にコブを抱えながら、深い苔色の身体をして、可愛らしい目とおちょぼ口でじっと見つめてくる。

青い絵の具を溶かし出したような色が水深何百メートルも続く、通称「ブルーホール」では、すぅっとまぁるい影が寄って来た。1メートル程もあるアオウミガメ。口をパクパクさせて私の顔に突進してくる。もしかして、キスしたい!?ドキドキしながら顔の手前まで距離を寄せてきた彼に呆然とする。

イールガーデンと呼ばれるなだらかな乳白色の海底に行くと、砂地から何百本もの太い白いテープが伸びている。穴から顔を出し海流にゆらゆら揺れているアナゴの大群。

近くの海底に眠る沈没船へ探検しに行く。暗く崩れ落ちそうな船室を、懐中電灯で照らしながら進んでいく。船尾の壊れたスクリューがびっしりと微生物で埋め尽くされている。今にも船員の霊が出てきそう。


ラクダにタンクと機材を積み込み、人知れぬ穴場スポットまでえっちらおっちら移動していく。車では到底通れない岩山、岸壁、細い小道。ラクダは独特のリズムでゆっくり着実にそれらの上を進んでいく。
辿り着いたスポットには、ハナノミカサゴ、ニシキヤッコ、テッポウウオ、アケボノチョウチョウウオ、ハナダイ、カタレクマノミ、オトメベラ、エンゼルフィッシュ、クイーンパロット、レッドハインド…岩と砂漠ばかりの地上と対照的に、海中はこんなにも鮮やかな魚たちが生息している。

ダハブは別名・恋の街。海のロマンチックさとゆったり流れる時間で旅人同士の間に恋が生まれる街。でも、私は人間には少しだけ恋をし(笑)、紅海には本気で恋をした。
毎日紅海に潜っていると、紅海に抱かれるような気分になってくる。


このままだと沈没船みたいに私もここに沈没しちゃう。滞在1か月目に意を決し、後ろ髪を引かれる想いで紅海に昇る楽園の朝陽に別れを告げ、カイロに向かった。

***

アフリカというよりも中東という雰囲気の首都Cairoカイロは、マリオット、グランドハイアット、ヒルトンホテルなどが集うインターナショナル都市。

街で今一番繁盛しているのは洋風のケーキ屋。ショートケーキにチョコレートケーキ、何十種もあるクッキー、ジェラート。まるでパリで見たお菓子屋のよう。街中にも遺跡の周りにも子どもたちがはしゃぎまわり、驚くことに子どもたちと同じだけの数の猫がたむろしている。


ギザの3大ピラミッド。一体どれほどの理系頭脳の持ち主たちが設計したのだろうか。知の結集した三角錐。岩を斬り運び出し、積み上げる過程を想像するだけで、気が遠くなっていくほどの壮大さかつ精巧さ。

しかし、そこまでしてピラミッドを造る必要はあったのだろうか。クフ王のファラオとしての権力は想像もつかないが、神と同一視され、見栄っ張りの権力誇示人間だったように思えてしまう。


一方、ナイル川を南へ遡る途中にあるルクソールにある王家の谷は、同じ墓でもハゲ山の中腹にそれぞれわからないよう掘られた穴にひっそりとファラオが埋葬されている。センスで言えば文系が考えそうなワビ・サビスタイル。ツタンカーメン王の墓は内部に入るまでその荘厳さはわからない。控え目さと情緒があり、一方で実力もあったのだろう。

私、ダンナにするにはピラミッドタイプより王家の谷タイプがいいわ。


度肝を抜かれるのはアブ・シンベル神殿。ナイル川沿いをエジプシャンたちと列車で遡った行き詰まりにあるナセル湖の畔には、神殿の前にラムセス2世の石像がどどーん!と鎮座している。しかも4体。どどどどーん。
ラムセス2世よ、20メートル以上もある自分の同じ石像を、4体も並べて造るなんてどれだけ自己顕示欲が強いのか…。その上、恐らくとてつもなく嫉妬深い。すぐ近くにあるアブ・シンベル小神殿は、ラムセス2世が寵愛したネフェルタリ王妃が祭られているが、王妃は2体。それぞれを挟む形でラムセス2世が各々2体、計4体いるのだ。
まるでオレオレオレ様宮殿。このオレ様オトコ、どれだけ伴侶を囲い込めば気が済むのかしら。こういうヤツ、私は無理だわ〜。

***

頭、イッちゃってる…。

眠気を誘う音楽の中、両腕を大きく広げ顔を斜めに傾けて、シェフ帽よりももっと長い、鉛筆のキャップのようなフェルト製の細長い帽子を被り、独楽のようにぐるぐるぐるぐる回るスーフィズムの信者たち。
顔は恍惚としている。白いロングスカートは回るのに合わせて朝顔の花びらのように開き、内側のカラフルなパラソル模様を露わにする。

これは幻と言われるスーフィーダンス。スーフィズムはイスラム教神秘主義派のことで、厳しい戒律に加えて、回旋舞踊することで神と一体化し悟りを開くと言われている。

やっぱり世界は広い。面白い宗教もあったものだ。
単に回り過ぎて目が回って頭がぼうっとするだけじゃないんだろうか。この眠気を誘う音楽と、延々と回転を続ける信者の間に漂う浮遊感は尋常ではない。
トルコでも同じスーフィズムダンスを見たが、あちらの衣装は真っ白。エジプトの方が観光化され、スカートも色とりどりである。イスラム教の中でも神秘主義と言われる宗派がトルコからエジプトにかけて分布している事実を知ると、イスラム教の広範性、派生性が伝わってくる。 

それにしても、半径20センチをぐるぐる回って貴方と一体化できるなら、半径6400キロを回ったらダンナぐらい見つかるわよね、神様。

***

一方、もう一つのダンスを観賞。

エジプシャンNo.1ベリーダンサー、またの名を超問題児ダンサー、Dinaダイナをご存じだろうか。



ベリーダンスは紀元前5世紀頃からエジプトを中心に地中海世界で伝承されてきたが、現在は私が踊るロマ族に濃く影響を受けたトルコのいわゆるオリエンタル式と、豊穣と伝統に重きを置くエジプシャン式に大きく分かれると言われている。

エジプシャン式は、法律によって踊り方や衣装に制限がある。また、エジプト国内で踊るには免許が必要で滅多に外国人には認可されない。国を代表する踊りとして時には排他的に守られてきたエジプトのベリーダンスは、より女性の“性”に迫っており、「官能」と「成熟」を表すものとされているため、人生経験の深い女性、具体的には40歳以上で、スリムと言うより豊満な体つきのダンサーが良しとされている。

そんなエジプシャンNo.1ダンサー、Dinaダイナの舞を、大枚はたいて観に行くことにした。行く先はカイロの一等地に建つヒルトンホテル。VISAカードくん、出番ですよー!

生演奏をバックにリッチなディナーを終え、そのままレストランで待つことなんと約2時間。夜10時半過ぎ、唐突にダイナはやってきた。

ボッティチェリの描く絵に出てきそうなむっちりしたダイナマイトボディと、それを強調するような黒レースがぴったりと身体に貼りつくマーメイド型の衣装。40歳をとうに過ぎているのに女豹のような圧倒的な存在感でステージに目を引き付けると、私が世界で最高よ、時間さえも私に合わせるのよ、といったようなうっとりとした表情で踊り始めた。その技術たるや、やはり流石である。一連の展開も、次にそんな風にターンするのね、と完全に釘づけにされた。

Tバックのパンティをわざと見せて物議を醸し出したり、複数の男性と浮名を流したり、女優として映画に出たり、という問題児のマドンナ。女としての魅力を存分に自覚して見せつけるあたり、師匠と呼ばせていただきたい。


<グルメレポート>


どこに行ってもファラフェルというサンドイッチ屋がある。半分に切った平べったいピタパンを稲荷寿司の要領で開き、具としてターメイヤというソラ豆の揚げたてコロッケをはじめ、揚げたナスや紫キャベツ、トマトなどをふんだんに入れる。具の多さによって1個1〜2エジプトポンド=約20〜40円。激安!ダハブのファラフェル屋は通い過ぎて顔見知りになり、エッグスペシャルというという特別メニューまでプレゼントしてくれた。

意外に普通だったのは代表料理コシャリ。マカロニや短く切ったスパゲティにヒヨコ豆と揚げた玉ネギを乗せ、トマトソース、酢、辛味をかけて食べる。庶民に大人気と言うが、冷蔵庫の残り物ごはんじゃないかしら。


バザールの近くで食べられる鳩の丸焼きのライス飯詰めは、焼き過ぎて水気がなくてパサパサしている。
もっとパサパサしているのはラクダの肉。砂漠に油分も水分も吸い取られてしまったような極限の硬さ。カイロの外れでラクダのモツ煮込みの屋台を見つけたが、内臓が硬過ぎて噛み切れず、味もまるでゴムのようだった。とても食べられたものじゃない。この旅で最も不味いものかもしれない。ラクダ乳も味が薄くてイマイチ。

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旅人

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1983年生まれ。東大法学部卒。
社会人としてスタートを切る前に、夢だった世界一周へ。

尊敬:緒方貞子さん
趣味:バスケットボール、ベリーダンス、サーフィン、バイク

著書

メディア出演履歴

【雑誌】
『Zai』(ダイヤモンド社)「ミニ株バトルコーナー」連載(06年7月号〜07年7月号)
『社労士V』連載(日本法令)(07年10月号〜)
『メモ ノート200%活用ブック』(日本能率協会)
『クロワッサン』(対談 高田万由子さん)
『週刊現代』『女性セブン』
『CIRCUS』『日経キャリアマガジン』
『月刊人事マネジメント』
『週刊ダイヤモンド 別冊特集』
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