【クウェート】 メイド&運転手付きセレブライフ

  • 2007年10月01日(月)
  • 00:00

クウェート行きエア・アラビア機内でサービスされるスナック、デーツ(干しナツメヤシ)を、断食中のため大事に仕舞っていると、隣の席になったアラビア人中年男性が興味深そうに話しかけてきた。

綺麗なクイーンズ・イングリッシュで静かに響くバリトンの声。恰幅が良く、優しげな目には余裕がにじんでいる。白いガトラを被り白いディシュダシャを合わせたアルカンダリ氏は、ロンドン留学後、首都Kuwait クウェートで外科医を勤めていると言う。

「ダンナ探しで世界一周とは恐れ入った。それで、今夜の宿は?」

「着いてから探すつもり。」

「良かったらうちに泊まるかい?」

空港に着くと、Dr.アルカンダリは私の入国ビザ代を支払ってくれ、主人の帰りを待っていた運転手は私のためにトヨタのドアを開け、荷物をさっと積み込んだ。



Dr.アルカンダリの家は立派な洋風2階建ての建物で、家族は植物学者の妻サミラと子ども6人。上の2人アブドゥラ20歳とサラア18歳はロンドンに留学中。下の4人ファラア14歳、ノラア11歳、ムハンマド9歳、アリ6歳はクウェートにあるアメリカン・スクールに通っている。

陽が落ちた後、メイドが準備した夕食を囲む。家族全員が流暢な英語を操り、話題も教養豊か、相当なインテリ一家だなと感じる。女性陣がスカーフをしていない様子を見ると、非常に先進的な考えをした一家のようだ。

食後は各々がノートパソコンに向かい、スカイプをしたりオンラインゲームをしたりしている。私は留学中のアブドゥラの部屋を使わせてもらう。部屋毎に専用のバスとトイレが付いていて、アメリカの高級玩具が並んでいる。


***

 
翌日、ブレザーの制服に身を包んだ子どもたちをアメリカン・スクールに送っていく車に私も乗り込む。子どもたちに手を振りながら見る学校の様子は、やはり外交官や商社マンの子息たちが通う金持ち校のようだ。

Dr.アルカンダリが許可をくれたので、そのまま運転手付き車を使わせてもらうことにした。なんて贅沢な気分。

球体を串刺しにした形の超近代的な給水タワーを見てから、ハイウェイを石油精製工場へ向ってもらう。

郊外の砂漠を走っていると、前方にもくもくとした黒い煙をいくつも吐き出す生き物のような巨大基地が見えてくる。鈍い鋼色の鉄の塊は全長1km程あるのではないか。血管のようにパイプラインが長く伸びている。停車禁止、写真撮影禁止なのでじっと目を凝らして脳裏に焼き付ける。これが、この国に富をもたらしているブラック・ゴールド、石油の命脈。迫力満点。

この宝物を巡った悲劇が1988年の湾岸戦争。
夕方、奥さんと待ち合わせて戦争記念館を案内してもらった。係員の説明を奥さんが英語に逐次通訳してくれる。ミサイルが夜空を切り裂く見覚えのある映像が流れ、クウェート・シティの模型では戦況を赤ライトで示す。
最後に、イラクのフセイン元大統領の銅像が引き倒されたレプリカがあり、復興を遂げていくクウェートの様子が表示されている。「もはや戦後ではない」とでも言いたいような雰囲気である。


***


キッチンでレンズ豆を下ごしらえしていたメイドのファリーヤに話しかける。どうやら運転手の男性は夫で、名前はタジ。アルカンダリ家に夫婦で住み込み、母国スリランカで親に預けている子どもたちの学費を稼いでいるという。

「アルカンダリさんはとても優しくしてくれるから、安心して働ける」

夫婦が子どもに会いに帰国するときのフライト代は給料とは別にサービスとして支払ってくれるらしい。さすがドクター、細やかな気遣い。

石油採掘が潤すこの国の財政は、教育費も医療費も保険料も無料(ただしアルカンダリ家はアメリカン・スクールに通っているため例外)、税金は存在しない。アラブ首長国連邦やカタールなども同様である。それならメイドも運転手も雇えるという訳だ。

アラブ諸国にやってくるアジアやアフリカの労働者たちは、働き口を斡旋する専門のブローカーによって送り込まれてくるという。ブラック・ゴールドが生む富が安価な労働力を呼び寄せ、アラブ人たちはホワイトカラー化してますます富んでいく。

「しかし、石油枯渇の危険性もある」

とDr.アルカンダリは言う。

「ドバイでたくさんの高層ビルが建設中だっただろう?でも実は、ビルはもう数百も建てられているのに実はほとんどが空室、それでも投資が止まらないんだ。」

そういえば、奇想天外な色と形をしたビル群は、“To Let”(貸り手募集中)の看板ばかりだった。

「ドバイはブラック・ゴールドのマネーが集中し過ぎてクレイジーな状況だ。ここで石油の産出量がすこしでも減ったらアラブ諸国は一気に崩れるよ。ま、こんなのは私が石油とは関係ない仕事をしているから言えることだけどね。」

「あなたは使用人にとても良くしているみたいだけど、リッチなアラブ人と貧しい外国人の二極化で暴動の危険はないの?」

「もちろんある。さらに深刻なのは宗教の問題だ。アジアから流入した仏教徒やキリスト教徒が結託して暴動する可能性も否定できない。湾岸戦争が勃発したように、ブラック・ゴールドがもたらした反作用も考慮に入れて国づくりをしていかないといけない。」

危機感ゆえ、Dr.アルカンダリはロンドンにペーパー会社を設立したらしい。クウェート人、湾岸戦争を体験したゆえか石油に浮かれているだけじゃなく現実を見据えてとても賢い。

Dr.アルカンダリのお蔭でクウェートに来てからビザ代を含め1円も支払っていない私は、アラブ人男性をゲットすればセレブ生活が待っている!と思っていたけれど、確かにバブルが弾けるリスクは高い。近い将来、アラブ人=金持ちの図式は成り立たなくなるかもしれない。

アラブ人石油王にダンナを求めるのは慎重に行かなくては、と兜の緒を締め直す。


<グルメレポート>

ペルシア湾に囲まれたクウェートは、豊富な海の幸に恵まれている。アルカンダリ一家とフィッシュマーケットに行き、隣接されたスークの青空レストランで食事。鮫を食すので有名。

読みたいカテゴリ(国・地域)を選択→


旅人

profilephoto
1983年生まれ。東大法学部卒。
社会人としてスタートを切る前に、夢だった世界一周へ。

尊敬:緒方貞子さん
趣味:バスケットボール、ベリーダンス、サーフィン、バイク

著書

メディア出演履歴

【雑誌】
『Zai』(ダイヤモンド社)「ミニ株バトルコーナー」連載(06年7月号〜07年7月号)
『社労士V』連載(日本法令)(07年10月号〜)
『メモ ノート200%活用ブック』(日本能率協会)
『クロワッサン』(対談 高田万由子さん)
『週刊現代』『女性セブン』
『CIRCUS』『日経キャリアマガジン』
『月刊人事マネジメント』
『週刊ダイヤモンド 別冊特集』
【テレビ】
テレビ東京『ガイアの夜明け』
日本テレビ『きょうの出来事』
テレビ東京『豪腕!コーチング』
【ラジオ】
関西ラジオ
静岡放送ラジオ
茨城放送ラジオ
【新聞】
朝日新聞書評
【Webサイト】
オール東大
FRI&Associates

selected entries

categories

このブログ内を検索