【パレスチナ】 家族の笑い声とぞっとする現実

  • 2007年10月28日(日)
  • 22:51

エルサレムの街を突き当たりまで行くと、高さ3メートルほどのコンクリートの壁が延々と続いている。ヨルダン川西岸を囲い込んでいる分離壁である。


パレスチナ自治区はエジプトに近いガザ地区、ヨルダンに近いヨルダン川西岸の2か所がある。パレスチナ研究をしているユウカの案内で、分離壁を抜けられるバスに乗り込んだ。

壁の何か所かに通り道があり、イスラエル軍の検問が敷かれている。バスは強制的にストップされ、銃を持った兵士が乗り込んでくる。乗客の顔をじろっと見回し、全員のパスポートを集めて入念にチェック。何度もパレスチナに行っているユウカはただ一人呼び出され、尋問を受けた。

なんとか検問を抜けると、丘の中腹に建ちにくそうに並んだ家が広がるパレスチナだ。

中心地Ramallahラマーラに着くと、黒い服を着て色とりどりのスカーフを被ったイスラム教徒の女たちが大勢集まり、手に手に男性の写真や絵を掲げて、激しく大声を上げている。黒・白・緑に赤い三角形を合わせたパレスチナの旗があちこちで振られている。どうやら、イスラエル軍に捕まったり殺されたりした息子や夫を返せと抗議運動をしているようだった。


ラマーラを越えると、その先はもう宿が存在しない。ユウカの知り合いのファエズさんというパレスチナ農家のところに泊めてもらった。

農作業を手伝うため畑へ行くと、ど真ん中にコンクリートの壁が建っていた。そして壁の向こうには化学工場。トマトを育てている横で、もくもくとした有害物質を含んだ煙が上がっている。ファエズさん曰く、

「領土を拡張したいイスラエルが、私の土地に勝手にコンクリートの壁を造ったんだ。しかも除々に造り直してどんどん家の方にまで近付いている。それだけでなく、壁の向こう側に化学工場まで作り、農業ができないようにしているんだ。

何よりやり切れないのは、その壁を造っているのは同じパレスチナ人だということ。ここには、パレスチナ人と“パレスチナ人”の2種類がいる。つまり、失業状態から抜け出したくて、イスラエル側の仕事を請け負うユダヤ派のパレスチナ人がいるんだよ。」


ファージさんは農民であると同時に活動家だ。国外のあらゆるルートを使って招聘状をもらって出国し、世界中でパレスチナの現状を訴えるべく講演をしていると言う。

「私はね、ただ先祖代々受け継いできた土地を耕したいだけなんだ。」

イスラエル人のソフィー夫婦との会話を思い出す。イスラエルとパレスチナの間には、拭い難い深い溝が存在している。

***

キャンパスライフを送る学生たちがわんさか溢れていた。


パレスチナ人が教育の権利を主張し、イスラエルが譲歩して創立されたビールゼート大学。新しくて立派な建物に活気が溢れているのを見て嬉しくなった。

ユウカの友達の可愛い双子姉妹・ラワンとラザンが出迎えて、友達に紹介してくれた。

「今ね、大変なことが起こっているの。ラワンに好きな人がいるんだけど、彼の方でもラワンが好きみたいなの!」

彼女たちはイスラム教徒のため、一応男子学生には積極的に話しかけないようにしているらしい。
そんな中、ほとんど言葉を交わしたことのない相手と恋が実ろうとしているとは!ロマンスだわ!

「ユウカもワカも男性に話しかけるのはOKでしょ?…彼に気持ちを聞いてきてくれないかな」

よっしゃ、ラワンの乙女心受け取った!

ウキウキとした気持ちで意中の彼の姿を追いかけるも、結局、広いキャンパス内で見失ってしまう。がっくりするラワン。力及ばずごめんなさい。


私はあったかい気持ちを感じていた。ああ、パレスチナの女の子も、普通の恋をするんだな。

***

さらに難民キャンプを巡る。ユウカに連れられて、造りかけのコンクリートの家にお邪魔すると、難民のハナ家族が出迎えてくれた。

ユウカが前回来たときはきちんとした家だったという。何があったのか尋ねると、

「何もしていないパパがユダヤ人を侮辱したと疑いをかけられて、イスラエル軍に連行されて帰ってこないから、怒りを抑えられなかった兄がイスラエル軍の集まる広場で自爆したの。そうしたら、夜中に戦車でイスラエル兵士が復讐しにやって来て、5分で荷物をまとめて家を出ろと言ってきたの。家族全員が外に出ると、目の前で家が爆発されたわ。」



淡々とハナが語るのを信じられない思いで聞いていた。応酬に次ぐ応酬。家を爆発された子どもたちは、ますますイスラエルへの憎悪を募らせ、成長してから兄と同じように自爆テロを起こすかもしれない。もう際限がない。

しかも、パレスチナの9歳以上の男の子は、何も悪いことをしていなくても大抵が連行されて牢屋に入ったことがあるという。独身男性の多くは牢獄にいるのだ。

でも、家族は明るい。爆発や逮捕が日常茶飯事で感覚が麻痺してしまうのだとユウカは言う。

一緒にメイクごっこをしたり、アラビア文字を教えてもらいながら子どもたちと遊ぶ。
家族総出で手づくりで建て直し中のこの家も、断水されていることを忘れるほど1階の部屋が豪華である。アラブ人はお客をもてなす意識が強いため、家族が生活する部屋を後回しにしても客間からつくり、いい家具を入れるという。そこで笑い声を上げながら過ごす家族を見ながら、その心の底に潜む麻痺してしまうほどの哀しみを思った。





なぜこんなことになったのか。もつれ合う齟齬の歴史とこんがらがったイデオロギーの糸をほぐすべく必死に考え続けたが、複雑すぎるイスラエルとパレスチナの問題は到底手に負えるものではない。

イスラエルとパレスチナで、この先も衝突による死者が出ないことを切に願う。



<グルメレポート>

パレスチナはアラブ人特有の客人をもてなす意識が徹底していて、難民キャンプといえどもたくさんの種類の料理を用意してくれる。ホブスという円形の厚みのあるナンを千切りながらいただく。オリーブが味わい深く、実もオイルもふんだんに使われているのが特徴的。刻んだハーブを混ぜた塩が必ず食卓にのぼる。ナスのペーストを丸めてオリーブに浸した団子や、厚めに切ったハムがアラブ料理では珍しい。

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旅人

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1983年生まれ。東大法学部卒。
社会人としてスタートを切る前に、夢だった世界一周へ。

尊敬:緒方貞子さん
趣味:バスケットボール、ベリーダンス、サーフィン、バイク

著書

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【雑誌】
『Zai』(ダイヤモンド社)「ミニ株バトルコーナー」連載(06年7月号〜07年7月号)
『社労士V』連載(日本法令)(07年10月号〜)
『メモ ノート200%活用ブック』(日本能率協会)
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